一歩一歩進んでいく

●ムーアの法則のくびきから逃れるために


 米国のIT関連ニュースサイト「Red Herring」に、マイク・マローン(Mike Malone)が書いた「ムーアの法則は忘れよう」という記事が話題を呼んでいる。ムーアの法則というのはご存じのように、インテルの創設者であるゴードン・ムーア(Gordon Moore)が1965年に提唱したもので、「半導体チップの集積度は18カ月で倍になる」という経験則だ。この法則はその後、半導体チップだけでなくIT業界のさまざまな局面に当てはめられるようになり、業界の標準原理のようになっている面もある。

 この記事では、ムーアの法則について「ビジネス戦略や利益、市場といった要因をすべて犠牲にし、ムーアの法則に従うということだけがわれわれの強迫観念になってしまっている」、「ムーアの法則は暴走機関車のようなものだ。あるいは惨事に向かって坂道を転げ落ちていくようなというか、それともカーブごとにスピードを上げていくような危険な行為というべきか。この暴走機関車から降りるすべを考えないと、われわれは最後にはIT産業をぶっ壊してしまうことになるだろう」と指摘。「ムーアの法則は有害で、IT業界の発展を阻害している」と批判している。

 この記事の中で、シュミットの発言が取り上げられている。「インテルのItaniumプロセッサによって、Googleのビジネスがどのような影響を受けるか」と聞かれたシュミットは、「影響はない」とあっさり否定。「GoogleはItaniumのような高性能なプロセッサを使うつもりはまったくない。むしろ、もっと安価で性能の低いプロセッサが今後のサーバを構成していくことになるだろう」と答えたのだ。

シュミットはこの記事の中で、「高いコストを使って最高のパワーを手に入れることには興味はない。大事なのは機能性をどう高めるかといういうことで、パワーと機能性はまったく別次元の話だ」とも言っている。たとえばGoogleが使っている数千のサーバに搭載されているマザーボードは、いかに部品を素早く交換できるかどうかを主眼にデザインされていて、電源に至ってはマジックテープで留められているほどだという。燃えだしたらすぐに交換できるようにするためだ。また最近も、高性能なハイエンドのディスクドライブに不都合が見つかり、数千台をより安価なドライブに交換することを行なったという。マローンはこの記事で、「ルータを大量に購入しているGoogleが、高性能化し続けるプロセッサの“特急列車”から降りると宣言したのだ。影響は少なくない」と書いている。

 AlwaysOnのインタビューに戻ろう。
 ムーアの法則は集積度と価格、性能という3つの変数から成り立っている。シュミットはムーアの法則について聞かれ、もし技術革新が今後は行なわれなくなると仮定すると、ムーアの法則が守られるためには、18カ月ごとに製品のコストパフォーマンスが倍になることになる、と説明。この論理が成立するなら、メーカーの収益は半減するか、あるいは収益を維持しようとすればコンピュータを2倍売らなければならなくなるという。

 「これでは日用品(コモディティ)のビジネスだ」とシュミットは言う。「そうなることを回避するため、われわれはWindowsの新しいバージョンを次々と市場に投入したり、インターネットの爆発的ブームを生み出したりしてきた。需要を生み出すことで前へ前へと進んできた」。だがそうした努力によって、成長のカーブを維持し続けるのは非常に難しい。しかも現在、そうした明確なキラーアプリは存在しない。パソコンの買い換え需要は2000年問題がホットだった時にすべて完了してしまい、新たなアプリケーションを使うためにパソコンを買い換えようと思っている人は少ない。ではどうすれば良いのだろうか。

 シュミットは「次世代のキラーアプリがあるとすれば、それはメディアをおいて他にはない」と言う。そしてIT業界を再び成長の局面へと向かわせるただひとつの方法は、情報にアクセスする方法を拡張し、発展させていくことなのだと。そうした拡張のひとつがblogであり、GoogleがPyra Labsを買収したというのもその一環というわけだ。実際、シュミットはインタビューの中で明快にこう答えている。

 「IT業界の成長の原動力が情報である、というコンテクストにおいては、状況はGoogleに有利に働いている。だって我々は情報へのアクセス方法を拡張するということを、ずっとやってきたわけだからね。」


 ※エリック・シュミットのインタビューはAlwaysOnの許可を得て使用しています。



Internet watchより全て引用しています。著作権は及びその記事の基となったところへ帰属します