●Googleはユーザーの秘密をこっそり集めている?
9.11同時多発テロ後の米国では、対テロ対策の名のもとに政府による国民の監視が強化され続けている。バイオメトリクスを使った新たな監視システムなど、ジョージ・オーウェルが描いた「ビッグブラザー」の世界を実現していると言ってもいいほどだ。その一方で、重要な情報は以前よりも隠され、国民がアクセスできない機密も増えているという。こうした米国社会の変容について、シュミットはどう考え、Googleというきわめて影響力の高いインターネットメディアが、その社会の中でどのような役割を果たしていくと考えているのだろうか。
AlwaysOnのインタビューで自らを「ジェファーソニアン」(米国の伝統的なリベラル思想を持つ者)と呼ぶシュミットは、「たとえそれが混乱を招こうとも、情報の透明性の確保が結果的にはよりよい社会を生むことになる。Googleは情報の透明性を確保させることができる」とコメントしている。たとえばある人が、自分の個人的な生活をWebサイトなどで露出したとする。そうした人は、検索エンジンに自分のサイトが登録されることで、自分が意図したものとは違う目的で個人情報を使われるという不利益を被る可能性もあるわけだ。Webで情報を発信しようという人たちは、匿名か、完全開示かという選択を常に迫られていることになる。
監視社会についても、シュミットは「こうしたことが蔓延するのは、社会にとって良い結果にはならない」と言う。「自由な社会と警察国家の境界をどこに引くかというのは、永遠の議論の対象で、結論は出ない。それなのに、テクノロジーは監視の能力をどんどん高めつつある」とも。
ところが、英国のBBCでは、しばらく前に「Googleはプライバシーを尊重しない企業だ」という内容の記事を掲載した。書いたのは、BBCワールドサービスプログラムのレギュラーコメンテーターであるビル・トンプソン(Bill Thompson)。
その記事によると、GoogleのCookieは2038年まで有効に設定され、ユーザーのIPアドレスと利用日、利用時間、ブラウザーの種類、それに検索したキーワードを保存しているという。記事は「この事実を見れば、Googleがユーザーの検索の内容を何年にもわたって蓄積しようとしているのは明らかだ」と指摘。そして「Googleはあなたが最近、妊娠を心配したのを知っているし、あなたの子供がどんな病気にかかったか、あなたの離婚裁判の弁護士が誰かも知っている」と訴え、「Google側は、同社がいっったいどんな目的でこのような情報収集を行ない、そしてこの情報が米政府などに渡されているのかどうかといった点について回答を拒否した」と書いている。
この指摘に対して、シュミットはAlwaysOnのインタビューで「そんなことはしていない。我々がやっているのはIPアドレスの記録だけで、しかもIPアドレスなんてたいていは共有されているだろう? われわれはユーザーの個人情報なんてまったく知らないよ」と強く否定している。そしてトンプソンの記事がネットで話題になり、あちこちのblogで取り上げられていることについて、「こんな記事を書いて、何てバカなヤツなんだと黙殺するのは簡単だ。でもそうした反応は間違っている。正しい反応は、もっと議論をしようよと呼びかけることだ」とコメントしている。シュミットの考え方は、ビジネスとしてはエンドユーザーの情報を蓄積し、それをマーケティングに利用する方が正しい、それができる技術的能力も持っている――しかし、ユーザーの了解も得ないでGoogleはそんなことはしない、ということのようだ。
次回も、AlwaysOnのシュミットインタビューを題材に、Googleのあり方についてさまざまに考えてみたいと思う。主なテーマは、Googleの収益モデルとムーアの法則の関係といったところかな。