一歩一歩進んでいく
●自律型の自己増殖コミュニティが世界を助ける?

 最後の話は、検索エンジンからはちょっと外れてWebの文化に踏み込もう。大きな枠組みで言えば、この問題は検索エンジンという文化が今後、どう発展していくかということともつながっていく。

 僕は今、この文章を米国の独立記念日に敬意を表して書いている。そう、今日は7月4日というわけだ。僕は今シカゴにいて、窓の外では花火が鳴り響き、活気に溢れた夜が始まろうとしている……。

 この2年間、米国では市民の個人情報を政府が収集することについての議論が延々と続けられてきた。DARPA(Defense Advanced Research Project Agency)という名前で知られる国防総省・国防高等研究事業局は最近、TIA(Terrorism Information Awareness System、テロリスト情報認知システム)というプロジェクトをスタートさせた。2,000万ドルかけて電子的な情報を分析し、テロリストの攻撃を事前に検知してしまおうというものだ。でもこの計画は、市民の生活を政府が過度に監視してしまうものだと、皆が思っている。

 マサチューセッツ工科大(MIT)のメディアラボをご存じの方も多いだろう。テクノロジーとメディア、アートを融合させたさまざまなプロジェクトを実行に移してきたことで有名だ。このメディアラボが最近開始したプロジェクトは、GIA(Government Information Awarness、政府情報認知システム)と呼ばれている。TIAに対抗して、政府の監視機関を作ろうという考え方だ。開発者たちは、政府高官たちの情報を一堂に集積する役割を担わせようと考えているようだ。

 GIAでは、情報をまとめる新しい手法として、たとえば同じ利益団体(日本でいう“族議員”)に属している政治家を分類し、それからそのリストを政治献金や投票記録のデータベースと照合していく――というシステムを考えている。政治家や党、政府機関などの情報を集めて関連付けを行なっていくことで、通常の報道では見えにくい部分も含めた包括的な情報を得ることができるという。

 このプロジェクトはその内容自体もさることながら、計画のデザインが非常に興味深い。GIAでは、自己増殖していく自律的なコミュニティを作ろうとしている。Googleのページランクや、Yahoo! Auctions、eBayなどのネットオークションのように、ユーザーが主体となって情報の価値を動かし、相互に評価しあうという仕組みだ。

 例えば信頼できるWebサイトは、Googleの検索結果ランキングのトップに入り、あるいは不誠実な業者は、オークションではじき出されていく。それと同じようにGIAでも、利用価値が高くて公平な情報が上位にランキングされるシステムを作ろうとしている。ユーザーは信頼性で投稿を評価付けし、もしこのシステムがうまくいけば、投稿をうまく分類することができるようになるかもしれない

この試みは、僕にとっては個人的にもかなり興味のあるものだ。僕はここ2週間をシカゴとデトロイトで過ごしていて、クライアントや友人、家族たちと会っていた(もちろん、来週に迫った僕自身の結婚式の準備もしているんだけど)。そこで気づいたのは、テレビのニュースを見ている人と、Webからニュースを得ている人では、政治的意見に大きな違いがあるということだったんだ。これはまったく科学的ではないし、僕の単なる個人的印象に過ぎないのだけれど――テレビからニュースを得ている人はブッシュ大統領支持派で、Webからニュースを得ている人はブッシュ大統領に批判的な人が多い。これはなかなか興味深い現象だね。

 GIAのサイトから、僕が最も好きな文章を引用しておこう。「TIAは毎年、何百万ドルもの予算を得て、ある意味ではまあ成功している。GIAはその100分の1のさらに100分の1の予算しかないが、アメリカ人の英知の結集で成功することができるはずだ」。

 ともかく、GIAのプロジェクトは、自律型のコミュニティというWeb文化固有の局面を、マーケティングに組み込んでいく可能性を秘めているという意味で、きわめて興味深い。開発者たちは、巨額なマーケティング費用を使わずに、オンラインの行動制御だけでトラフィックを増やそうと狙っている。それはSEOが、人々が検索エンジンを使うという新しい文化をマーケティングに持ち込んだのと似ているかもしれない。



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