一歩一歩進んでいく
●「統合によるパワー」に抵抗していくパワー

 Nutchは、まだ生まれたばかりの赤ちゃんのような試みだ。それは簡単に言えば、オープンソースの検索エンジンを作っていこうというものだ。

 インターネットのナビゲーションにおいて、検索は今やなくてはならないものになっている。ところが人々が検索エンジンへの依存度を高めていけばいくほど、なぜか検索エンジンそのものの数はどんどん減っていくという怪しいジレンマが生じつつある。ここ数年で、有名検索エンジンがいくつ消滅してしまったかを思い出してもらえばいい。いったいどうなっているんだろう?

 かつてはたくさんあった検索エンジン企業は、いまやわずか3つに集約されてしまっている。Overtureを買収したYahoo!とGoogle、それにMicrosoftのMSNだ。このままでは今でさえ寡占の状態にある検索エンジン業界は、遠からず1社による独占状態にまで突っ走ってしまうかもしれない。ただ1社だけが検索エンジンを支配し、その企業の商業的な利益を支えるためだけに検索エンジンが存在している世界――考えただけで、ちょっとうんざりしてしまわないだろうか? ボランタリーな精神と多様性が根本の哲学にあるインターネットの世界には、“独占”という言葉は似つかわしくない。検索エンジンが独占されてしまうのは、ユーザーにとっても少しも良くない状況だ。

 そこでオープンソースの登場となる。Nutchのサイトには、こう宣言してある。「オープンソースの検索エンジンだけが、どのような圧力や偏見にも影響を受けず、全幅の信頼を寄せられる検索結果を提供することができるのだ」。Nutchの目指しているのは、検索エンジンの王座を占めるGoogleに退位を促して自分が代わりに市場を支配しよう……ということではない。検索エンジンにオータナティブな選択肢を提供することで、Googleなどの商用検索エンジンに対し、公正な検索結果をきちんと提供させる圧力になろうというものだ。興味深いのは、Nutchは検索のアルゴリズムをすべて公開してしまおうという考え方。オープンソースだから当然といえば当然なのだけれど、ある種のSEOスパムの餌食になってしまわないだろうかという不安は若干残るかも。

 Nutchは非営利の民間プロジェクトで、検索エンジン業界の研究者たちが参画している。Overtureも資金協力しているという。NutchはJavaで書かれており、今年6月には1億ページをデータベース化したデモシステムが開発した。もっともこのシステムを一般公開するための十分なハードウェアがまだ用意できていないといい、利用できるまでにはまだ若干の時間がかかりそう。

 このNutchの話に、僕はジョンとヨーコの古いこんな歌を思い出す。「パワー・トゥー・ザ・ピープル」(人々にパワーを)。



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